私は今まで2回、マラエ(マオリ式集会所)でお葬式に参列させて頂いたことがあります。
マオリ語で お葬式のことを タンギハンガ (Tangihanga) または タンギ(Tangi) と言います。
ニュージーランドに長くお住いの方やご家族にマオリの親族がいらっしゃる方は
もしかしたら参列したことがあるかもしれません。
タンギは数日間に渡り行われます。
場合によっては、いくつかのマラエを移動することもあります。
日本でも参列する際のマナーやしきたりが分からない時があるのに、海外でのマナーはさらに謎だと思います。
なので、今回はマオリ式のお葬式タンギの流れと参列時のマナーなどをご説明します。
お葬式の流れ
流れはポーフィリ(歓迎の儀式)とほぼ同じです。
ざっくりの流れはこのような感じです。
正面の門で待つ
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カランガ(呼びかけ)で会場に入る
↓
ホンギ (マオリ式の鼻と鼻を合わせる挨拶)*スピーチ/歌の後に行う場合もあります
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スピーチと歌
↓
食事
通常のポーフィリ(歓迎の儀式)でも神聖でスピリチュアルなものを感じるのですが、
タンギはそれよりもさらに神聖な雰囲気があります。
儀式としての緊張感もより高いです。
そして、皆さん感情を隠さず表に出します。
声に出して泣いている方もいます。
服装について
男性は黒いズボン
女性は黒い膝丈下のスカート
この服装が基本です。
コハ(Koha)
参列する際はKoha(コハ)を用意します。
コハ(Koha)は通常ですと「寄付」と訳しますが、
ここでは日本的に言うところの「香典」にあたります。
コハは気持ちです。ですので、相場は特にありません。
(私がまだ知らないだけかもしれませんが)
日本式ですと香典は封筒に包んで、お渡しするときに名前を記入をしたりしますが、そういったことはありません。
マラエに入る前に代表者の方にお渡しするだけでいいです。
スピーチの最後に、代表者の男性が集めたコハを封筒などに入れて渡してくれます。
会場に着いたら、まず門の前で待つ
タンギが執り行われるマラエに到着し、コハも代表者に渡して
準備ができたら正面の門の前で待ちます。
勝手にマラエの中に入ってはいけません。
基本的にはグループごとに中へ案内されます。
そのため、前のグループがセレモニーを行っていることもあります。
もし儀式の最中でも「遅れたかも!」と、焦らないで下さい。
葉の冠を付けたご年配の選ばれし女性が待っている参列者に向けて
カランガ(呼びかけ)をして、中へ導いてくれます。
それまでは待っていてください。
「先祖の家」に入る時のマナー
カランガで中へ導かれると、大きな建物の中へ案内されます。
伝統的なマラエであれば、建物の正面と内部にマオリ彫刻が施されていたりもします。
この建物は
ファレヌイ(直訳:大きな建物)や ファレトゥプナ(直訳:先祖の家)(以下、「先祖の家」) と言います。
壁にはお亡くなりになった方々の写真がかけられており、
この「先祖の家」の中にはご先祖様の魂があると考えられています。
そのため、神聖な場所です。
中に入る時には靴を脱ぎます。
中での飲食禁止です。
食べ物を持ち込むことも避けた方が良いでしょう。
ご遺体ともホンギする
お葬式でもホンギ(マオリ式の鼻と鼻を合わせる挨拶)をします。
ホンギの説明はこちらをご覧ください→マオリの挨拶 ホンギのやり方とコツ
ご遺族の方々とはもちろんですが、ご遺体ともホンギします。
ご遺体はお棺の中で眠っています。
お棺は床の上に置かれているので、真横で膝をつき、お棺に手をついて、自分の顔をご遺体の顔に近づけていきます。
私は初めて参列した時この仕来りを知らなかったので、ちょっとびっくりしましたが
不思議と抵抗なくホンギができました。
中にはホンギしない方もいらっしゃいます。
どうしてもできない方は故人の顔を見つめて、少しの間、故人のことを思ってください。
ご遺族はスピーチしない
スピーチはご遺族ではなく、親戚などが代理で行います。
通常マラエでは料理をしたり、掃除をしたり、儀式中には歌を歌ったりと色々な仕事がありますがしなくてもいいのです。
ご遺族は家族を失い大きな悲しみの中にいます。そのため、周りの人がサポートするのです。
「先祖の家」から出るときは水で手を洗う
ホンギ、スピーチや歌などの儀式が終わると、「先祖の家」から食堂へ向かいます。
通常の歓迎の儀式ではそのまま食堂へ向かいますが、お葬式の時は違います。
「先祖の家」を出たら、ハカノア(Hakanoa)をします。
まず水で手を洗い、体にも少し振り掛けます。
「神聖」から「日常」へ切り替えをするのです。
詳しく知りたい方はこちらもご覧ください→マオリ文化を知るために大切な概念ーTapu「神聖」と Noa「日常」
食堂には軽食が用意されています。
必ず何かを口にして下さい。これもハカノアであり、大切な儀式の過程です。
一晩中執り行われる
来客は夜中でも受け入れます。
遠いところから、場合によっては海外から最後のお別れをしにいらっしゃることもあります。
ですので、いつでも受け入れます。
(部族によって違いがあるようです。)
参列者(又はグループ)が訪れるたびに行われるため、
何度も何度も、一晩中、呼びかけ→スピーチ→歌→食事(来客者)が続きます。
ご遺体の横に必ず誰かいる。
昔は遺体を盗まれたりすることもあったので、
飲まず食わずで特別な人がずーっとご遺体の横にいたそうです。
今でもその名残で、ご遺体だけにせず、必ずご遺族が近くにいるようにしています。
ご親戚の方々も遠くからお越しの方はマラエに泊まります。
これから参列される方、タンギについて知りたかった方の参考になったら幸いです。
私は2回参列させて頂いたのですが、
実は両故人とも直接の知り合いではありませんでした。
それなのになぜ参列できたかというと、先生やご遺族のご厚意です。
マオリ語/文化コースではマオリ式のお葬式タンギについても学びます。
しかし、学んでも参列する機会があまりない学生もいます。(私みたいな人ですね。)
マオリ語の先生からご遺族にも同意を得て頂き、参列させて頂きました。
先生には感謝してもしきれません。ご遺族の方々にも本当に感謝です。
ありがとうございました。
今回、タンギの流れやマナーをご説明しましたが、部族によって違うこともあります。
ですので、もし分からなければ、その部族の人に聞いてみて下さい。
聞くのは恥ずかしいことではありません。
日本にはこんなことわざがありますよね。
「郷に入っては郷に従え」
そこのしきたりに従うのが敬意を示すことでもあり、礼儀だと思います。
でも、固く考え過ぎないで下さい。
敬意を持っていれば、きっとそれは伝わるはずです。
一番大切なのはその気持ちです。
今回はマオリ式お葬式の流れ参列者としてのマナーを中心でしたが、
お棺がマラエに安置されるところ、次のマラエに出棺するところまでお手伝いさせて頂いたことがあるので、そこでの流れや感じたことも近々書けたらと思います。
もう少し深く知りたい方はそちらもぜひご覧くださいね。